ふくしDX事例
特集
DX推進が拓く福祉の未来ほぼすべての産業において人手不足が深刻化するなか、福祉・介護サービスの担い手の確保が今後ますます厳しくなることはご承知のとおりかと思います。
当法人は特養を主とした、いわゆる1法人1施設、職員数90人ほどの小規模な法人です。人材や資金も潤沢にあるわけではありません。
このような状況のなかで、どうすれば地域の福祉をリードし、永続的に事業を継続できるのか。限られた資源(ヒト・モノ・カネ)で、いかに効率的・効果的にサービスを提供するのかを考えると、福祉における生産性向上を進めることで、福祉サービスの質と価値を高めつつ、効率的な提供を両立させることが、持続可能な法人経営の必須要素であると思います。
1. 委員会の設置と効果的な運営のために〜最初の一歩
そこで当法人では、法人内における生産性向上を図ることを目的として、2021年度より生産性検討委員会を設置し、現場を中心に進めるAチームは各事業所からICT機器等に明るい者・興味のある者、苦手意識のある者も含めた多職種で編成し、Bチームはバックオフィス業務を中心に進めるため、事務職員で編成。それぞれのチームに成果目標を掲げてスタートいたしました。
こうした活動で最も大変なのは「最初の一歩」であると思います。
そもそもなぜ生産性を向上させなければならないのか、どこをめざし、何を成すのか、そのために必要な知識および効果的な実践のプロセス、効果の評価方法等を学ぶ必要があります。
当法人では、当委員会に外部の有識者にご参画いただき、社会福祉法人の生産性向上とICT導入に関する解説動画(計7本)を作成し、委員を対象として導入研修を実施。必要な基礎的知識を習得しつつ、職員を巻き込む必要性を理解しました。有識者の方には、継続的に委員会にご参加いただき、機器選定時における専門的視点からの助言や、効果の出ている他法人の事例や関係するデータ等をご紹介いただくなど、伴走的な支援を受けながら、決して急ぐことなく活動してまいりました。
2024年4月の介護保険制度改正で示された、生産性向上に関連する改定がありましたが、その3年前から委員会を設置し取組んできたことで、現場から大きなアレルギー反応が出ることなく、計画的に進めることができていると感じております。
また、取組の間には介護現場のニーズを踏まえた介護ロボットの開発を促進するための機関である「リビングラボ」として厚生労働省の指定を受けている社会福祉法人への視察等も行い、先進法人の取組を学びました。
2. 具体的な実践について~ペーパーレス化
まずはA・Bチームともに厚生労働省の生産性向上ガイドラインをもとに、現状把握および業務課題のとりまとめに取組みました。
そこで見えてきたのは「とにかく紙をなくす!」ということでした。当法人は現場もバックオフィスもほぼすべての記録が紙の状況でした。必要な情報は、それぞれの場所に行かないと取得できず、職種間で共有すべき情報は多数の転記によって共有・記録されていました。
介護保険事業では2021年4月からLIFEの導入によるデータ提供が始まりました。LIFEの対象事業は、自立支援や重度化防止に資するサービス提供に向け、今後はフィードバック対応およびアウトカムを求められることとなるため、データ分析による根拠に基づくサービス提供が重要となります。そのためにはケア記録のデジタル化は必須となることが推察されました。
Aチームの取組~現場における記録業務の省力化
介護記録システムの選定から着手しつつ、記録システムとのデータ連携可能なセンサーや、連動性の高いインカム等の関連機器を順次選定し、効率的なオペレーションを構築するイメージを委員及び選定先のメーカー等と共有した上で、効果が期待できそうな3社から提案を受けました。うち1社の記録システムを昨年8月に導入しました。導入前後にタイムスタディ(業務時間調査)を実施したところ、想定した成果までは至らないものの、記録入力時間の省力化及びリアルタイムの情報共有が進んでいると評価できました。
今後は記録の活用として、申送り記録の自動抽出や業務日誌等への自動転記、ケース記録への展開を進めつつ、IoT機器との連携によるさらなる記録入力時間の省力化、記録集計による利用者の行動および事故に関するデータの分析を進め、サービスの質の向上をめざします。
Bチームの取組~バックオフィス業務の効率化
当初、5つの要素から成る職場環境改善の手法「5S活動」から着手しつつ、DXに関しては勤怠管理システムの導入に的を絞って検討しておりました。しかし、検討の間に業界内におけるDX環境もどんどん進化したことで、雇用契約・入職手続きおよび勤怠管理、シフト作成、給与計算といった一連の業務について、すべてを紙手続きからデジタル化し、自動作成、自動集計、自動連携、自動保管とすることで、バックオフィス業務の効率化をめざすことにシフトして進めることとなりました。検討の結果、既存の会計システムとデータ連携可能なアプリケーションをいくつか組み合わせて導入するフローが整い、活用可能な補助金について、Aチームと重複とならないように調整しながら申請を進めました。バックオフィスにおける業務について、めざす月間の削減時間を掲げ、削減によって生まれた時間を広報および採用活動等に充てるよう計画しています。


3. 医療・介護分野における地域連携の強化
A・Bチームともに活動を通じて業務課題を明確にし、その改善に向けて最適な道具(ICT機器等)を選んだり、組み合わせたりして、よりよいオペレーションを組むこと、費用対効果(収支)の数値化、実践を担う人材の育成に力を入れる点が重要であります。
また、前述にあるような法人内の生産性向上も重要ですが、地域の医療・介護分野におけるDXの推進は、持続可能かつ質の高い医療・介護サービスの提供に必要な地域連携の強化に大変重要であると思います。
当法人では、製薬系メーカーが開発中の在宅で認知症ケアを行う介護者向けのAIチャットを用いた伴走支援サービスの有効性の検証に参画し、行政の担当課、地域包括支援センターや在宅医療介護連携支援センター等との意見交換等も行っております。
また、10月に改正される住宅セーフティネット法に対応し、居住サポート住宅で活用する安否確認システム「みまもりプラス-24」をソフトバンクと連携し、民間企業初の導入を予定しております。
こうした機会を通じて地域貢献を図りつつ、関係する職員の成長や関係先との連携強化も図ることで、こうした分野でのファーストコールをいただけるようになればと考えています。
生き残りをかけて
生産年齢人口減少による深刻な人手不足のなかで、ICT化や業務の効率化を進めることは必須です。しかし、生産性向上を進めた結果、仮に職員1人当たりのパフォーマンスが100から120になったとしても、その職員が休職や離職等で離脱してしまえば、損失はこれまで以上に大きくなってしまいます。限られた働き手を確保するためには、働きやすく、かつ働き続けることのできる職場づくりが必要です。職場づくりが経営の基盤と考え、当法人では健康経営優良法人の認定をめざし、本年度申請を進めております。
労働生産性低下による損失の防止(休職・離職、稼働率低下の防止)や、職員を大切にしているという法人のイメージアップなどでも効果が期待できます。
生産性向上を推進し、働きやすい職場、働き続けることができる職場づくりを進めることは、質の高いサービスの提供につながります。こうした一連の取組によるブランディングを通じて、顧客・労働力の安定的な確保につなげつつ、事業の多角化等を進め、地域に欠かせない社会福祉法人としてアップデートを図ることで存在感を高め、小規模法人でも生き残っていけるよう引き続き取組んでまいります。


