DXの土台となる考え方

ふくしDXは、土づくりからはじまる。

今、福祉の現場において「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の推進が強く叫ばれています。
AIやICT機器の導入、自動化や効率化——。しかし、これらの技術を導入しただけで現場が変わるかといえば、決してそうではありません。むしろ、準備の整っていない土壌にいきなり最新技術の種を蒔いても、芽が出ず、やがて枯れてしまうことすらあるのです。
DXの成功には、DX以前にやるべきことがあります。それは「組織の土台づくり」です。これがなければ、どれだけ優れたテクノロジーも、活用しきれず空回りしてしまうのです。このサイトが掲げる「ふくしDX推進」は、まさにこの原点からスタートします。

DXを一つの植木にたとえると

私たちは、DXの全体像を「植木」にたとえて表現します。
福祉施設という“現場”において、目に見える変化を実現するには、まず見えにくい部分から丁寧に手を入れる必要があります。

※鉢植えをモチーフとしたDX構想のコンセプトは、経営協DX推進専門委員・山口 純氏(株式会社ヤマグチ 代表取締役)の発案です。

植木

(法人全体の経営基盤)

DXのすべてを支える“器”となるのが、法人の経営基盤です。
この器がゆがんでいたり、ぐらついていたりすれば、どんなに良い取り組みも継続できません。

具体的な要素

  • 法人全体の【財務体質の安定】
    (黒字運営・投資余力の確保)
  • 【人材確保と雇用維持】に向けた採用戦略・待遇改善
  • 【ガバナンス・コンプライアンス体制】の整備
    (内部統制・情報管理など)
  • 【事業継続計画(BCP)】の策定と実効性のある運用

(組織文化と人材)

技術導入の前提として、職員が変化を受け入れ、前向きに関われる風土が必要です。“やらされる”DXではなく、“自分たちで進める”意識を育てることが大切です。

具体的な取り組み

  • 【意識改革】のための研修や対話型ミーティング
  • 【リーダー人材の育成】
    (現場責任者や次世代リーダーの役割明確化)
  • 【職員間のコミュニケーションの促進】
    (情報共有の仕組みや風通しのよさ)
  • 【チームで成果を出す文化】の定着
    (目標管理や表彰制度など)

(業務改善に向けた足場づくり)

現場に改善意識と実行力がなければ、どんなシステムも形だけに終わってしまいます。まずは“足元を見直す”活動からスタートします。

具体的な取り組み

  • 【生産性向上委員会】の設置による改善体制の明確化
  • 【5S活動】
    (整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の徹底
  • 【業務の標準化】
    (誰がやっても同じ結果が出る手順づくり)
  • 【タイムスタディ】による作業時間の可視化と見直し

(業務改善・効率化の取り組み)

この段階では、実際の業務にテクノロジーやシステムを取り入れ、効率化を図ります。 ポイントは「現場の声に合わせて選ぶ・つなぐ・活かす」ことです。

具体的な取り組み

  • 【記録業務の効率化】
    (記録項目の見直し、音声入力など)
  • 【記録システムの導入】
    (スマホやタブレットでの記録を推進)
  • 【データ活用の基盤整備】
    (クラウドの活用、分析しやすい形式で蓄積)
  • 【システム間の連携】
    (記録システムと請求、シフト、相談管理などの一元化)
  • 【ムダな情報管理の見直し】
    (帳票の削減、二重記録の廃止)

枝葉・花(業務変革・価値創造)

最後に現れるのが「目に見える成果」です。
職員の負担軽減、判断の質の向上、新たなケア価値の創出といった変化がここで実現します。

具体的な成果例

  • 【カメラAIによる記録の完全自動化】
    (排泄・食事・行動などを自動で記録)
  • 【センサー・IoT機器を使った状態把握】
    (睡眠・転倒リスクなどの検知)
  • 【データに基づく予測的な業務管理】
    (スタッフ配置・事故予防などの最適化)
  • 【利用者・家族への情報提供の質の向上】
    (データを活用した可視化や共有)
  • 【新たなケアの価値の創出】
    (業務効率化で生まれた時間を“寄り添い”に還元)

事例は、答えではなくヒント

このサイトには、全国各地の施設が取り組んできたふくしDXの実例を集めます。
うまくいったこと、つまずいたこと、思わぬ成果が生まれたこと。
どの事例も、派手さよりも「等身大」で、現場のリアルな試行錯誤が詰まっています。
それは、すぐにマネできる「答え」ではないかもしれません。
でも、「うちの施設でも、こんなことから始められるかもしれない」
そんな気づきと希望を育てる、小さな“芽”にはなるはずです。

テクノロジーは、最後に咲く“花”

私たちが大切にしたいのは、導入するシステムの名前や価格ではありません。
「その技術が、現場にどんな変化をもたらすのか」
「それが本当に“現場の味方”になるのか」
こうした問いを、現場とともに考えることからDXははじまります。
そして、その変化は「枝葉・花」としてあらわれます。
テクノロジーは「人が人らしく支援する時間とゆとり」を取り戻すための道具です。
記録に追われる時間を減らすことで、
職員が目の前の利用者と、より深く、丁寧に関われるようになる。
そのとき、初めてテクノロジーは「味方」になります。

一歩ずつ、土を耕しながら

DXは、誰かが魔法のように起こしてくれる変化ではありません。
それは、日々の業務のなかで、
一つひとつの判断や工夫を積み重ねることで育てていく変化です。

このサイト「根づく、育つ、咲く。」が、
あなたの現場におけるふくしDXのヒントや支えとなることを願って。
ともに、未来の「花」を咲かせていきましょう。